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【ColoRfuLL】
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「我が輩が恋しかったのか?ヤコ」

「この『謎』は、我が輩の舌の上だ」
重力どころか速度さえも無視してジェット機の側面に立つのは、窓の外に見える空よりも深い青色。
あまりにもよく見慣れ、決して忘れることのなかった色を纏ったヒトならざるその人は、弥子のシート脇の窓からこちらを覗き微笑んでいた。
(ネウロ!?)
思わず体が距離をとろうと後退さる。残念ながら肘掛に阻まれてそれは叶わなかったが。
「魔界777ッ能力、異層の抜け穴(イビルフープ)」
窓の外の魔人が黒い手のひらを窓に押し付けると同時に、シート前の通路の隙間分だけ側面壁が漆黒に塗り潰されて、そこから彼の人が頭をのぞかせて侵入してきた。今まで散々命の危険すら伴う現場に赴いてきた弥子だったが、殊この魔人のやり方には思考が追いつかない。
「…!って、あんたそれ『通り抜けフー…』ムグゥ」
至極当然のごとく空いていた弥子の隣に腰掛けた魔人を見ると、正気を取り戻した弥子は3年前と変わらずツッコミを入れる。しかし、全てを言い終わる前に皮手袋に包まれた大きな手が弥子の顔を覆った。
「貴様、我が輩の魔界能力をあんな青狸のただ壁を通り抜けるだけの輪と同じなどと思うな」
ギリギリと顔面を締め上げる手のひらは,、まるでその感触を確かめているようだ。
「んむぅ~~…ぷはっ!じゃあ何だっていうのよ?」
弥子にしてみれば、やっとの思いで彼の手を引き剥がし深呼吸もそこそこに反論する。
魔人は少し考える素振りを見せてその耳まで裂けた鋭い牙の見え隠れする唇を開いたので、弥子はまた碌でもないことを考えているなと溜息を吐いた。
「フム。通った場所の材質が劣化するな」
「尚更ダメじゃん!ていうかあんたさっきの台詞、完全に日本中を敵に回したよ。誰もが一度は夢見る国民的マスコットを何だと思ってるのよ…」
「フン。そんなものは我が輩の知ったことでは無い。そして貴様、敵と言ったがただの人間風情に我が輩の相手が務まるものか」
ツンとすまして正面を向いた隣人に弥子は再び溜息を吐いた。そうして反論とばかりに口を開く。
「なぁによ、そのただの人間にボロボロにされて里帰りを余儀無くされた気弱魔人は誰だったっけ?」
「はて、誰のことやら?我が輩『ただの』人間の相手をしたことも気弱になったこともないのでな」
彼の傲慢な口調は相変わらず、自分の負けも認めようとしない。そして目を閉じ、肩を竦める様も優雅そのもので変わっていない。当たり前だ。こいつは一度深呼吸に戻ると言っただけなのだから、何が変わるわけでもないのだろう。
「うわー平気でウソ吐きやがったー」
白々しく思いながら身を引くと、その美貌の男はこちらを向いた。
「あんな悪意の塊で出来た突然変異をただの人間とは呼ばん。そして気弱になったのではなく当然の計算結果を口にしたまでだ」
「それを屁理屈っていうのよ」
駄々を捏ねる子供の相手をしているようだと思いながらがっくりと頭を落とし、ちらりと見遣る肘掛け。
ほんの数分前まで失われていた、そして戻ってきた青い袖とその先の黒い大きな手。
弥子は勢いよく顔を上げて隣に陣取るその人に笑いかけた。
「おかえり、相棒」
「…ああ。いま帰った、相棒」
彼はゆっくりと噛み締めるように目を細めた。



「もー、せめて空港に着いてからにしてくれれば良かったのに…あんたのフォロー入れるのに時間かかったんだからね」
荷物を回収し、ロビーを青い長身と肩を並べて歩きながら弥子はぼやいた。
「その位効率良くこなせ、ミジンコが。嘘も方便というだろうが」
あんたの為の説明は100%嘘だよと内心でツッコミながら弥子は肩を落とした。
「あのねぇ、普通渡航するのに身分証明とか検疫とかいろいろしなきゃいけないのを回避してあげたんだから感謝しなさいよ。どうせならブラインドかキャンセラーでも使っててくれればこんな面倒なことにはならなかったのに」
折角気配や姿を消せる能力があるのだから、こういう場合にこそ使って欲しいと弥子は思った。
「我が輩学習したのだ。必要最小限の魔力消費に心掛けることが大切だと」
「うん。今更だわ」
弥子が大きく溜息を吐くと、エントランスの出入り口に設置されているベンチから声が掛かった。
「おーう!探偵、迎えに来たぜ~…って、おま、化け物!?帰って来たのか!」
吾代はガタガタと騒がしく席を立ち、やや及び腰で二人から距離をとった。それはこの傍若無人な魔人から逃れるための条件反射なのだろうが、どことなく自分も疎外されたような気がして弥子は苦笑した。
だが仕方がない。隣の魔人はそういう奴だし、自分だってさっきは同じことをした。
「うん。出会い頭から散々だよ」
弥子がただいまと言いながらパタパタと小走りで吾代に近付くと、彼は片手をポケットに突っ込み、反対の手で少し身長の伸びた弥子の頭を軽く叩いた。おかえり、と言って笑う。
「まぁ、良かったじゃねーか」
吾代はそのまま弥子の柔らかい髪の毛をくしゃりと一撫ですると、弥子はいやに大人しい魔人に目を向けながら呟いた。
「うー、いざ帰って来てみるとさぁ、」
嬉しいとか懐かしいとかよりも…と口籠る弥子に気が付いたのか、ネウロは周囲を見回していた目を眼前の一人に定めた。
「なんだ?ヤコ」
心底嬉しそうに螺旋を描く緑色の目を細めてネウロは二人に歩み寄った。
「いっ!やぁっだなあ、ちゃんとネウロが帰って来て嬉しいと思ってるよ!だからその物騒な手は止めてよ!」
弥子の背後に寄り添ったネウロの手は刃物と化して華奢な背に迫っていた。
「チッ」
「ハハッ相変わらずだな。じゃあ、帰っか。それともどっかに寄るか?」
吾代も思いがけず戻ってきたかつての日常に嬉しそうに目を細めた。弥子は少し考え込む素振りを見せると、すぐに首を横に振った。
「今日は帰るよ。流石にちょっと疲れたし、あかねちゃんも休ませたいし」
「そっか。なら行くぞ。俺だって暇じゃねーんだ」
「うん。いつもありがと、吾代さん!」
「気にすんな」
吾代に荷物を預け、歩き出した弥子は数歩進むとネウロを振り返った。
「行こ、ネウロ」



ネウロと弥子を乗せた吾代の車はまっすぐに事務所の有る雑居ビルに向かうと、速やかにその場を去っていった。
仕事の合間に弥子を迎えに来てくれたのだというし、戻ってきたネウロに買い換えたワンボックスカーを壊されるのを恐れたのだろう。それはもう、脱兎のごとくと言った様相で弥子が声を掛ける暇もなかった。
弥子はハンドバッグから鍵を取り出し、ドアノブに差し込んだ。ガチャンと錠が開くと軋る様な音を立ててドアが開いた。
「ただいまー、ねえトロイ、ネウロが帰ってきたよ」
弥子は事務所の窓際に鎮座するマホガニーのデスクに声を掛ける。これは昔から変わらない弥子の習慣だ。
弥子が荷物もそのままにあかねのデスクに寄ると、あかねは本体に移動する。
「ただいま、あかねちゃん」
(おかえりなさい、弥子ちゃん。今回も大変だったね)
あかねの艶やかな髪を撫でながら弥子が声を掛けると、あかねはホワイトボードに返事を記す。
「そうだね。ちょっと待ってて、すぐにトリートメントの準備するから」
(荷物の整理が終わってからでいいよ。私はずっと休んでたから)
「ありがとう。じゃあ、急いで片付けるね」
弥子は足取り軽くトランクに駆け寄り、土産の整理をしようと中身を広げ始めた。



ネウロはといえば、事務所内を見回しゆったりとした足取りでトロイに向かう。途中、ソファの背に触れトロイの天板に指先を滑らし、デスクチェアに腰掛けた。ぴったりと体に添う革張りの背凭れに深く身を預けると、ふぅわりと甘い香りがネウロを包んで目を見開いた。
弥子の香りだった。
ネウロは視界に弥子を収めた。弥子は荷解きの最中でネウロのことなど気にも留めていないようだった。
ネウロは音もなく席を立つとあかねに近寄った。
「あかね」
(はい)
「どのくらい経った?」
(…ネウロさんが去った日から、もう少しで3年になります)
既にヒトの範疇から外れたあかねとは言葉を介さずとも会話が出来る。ネウロはあかねの魔界電池に魔力を補充しながら背後の弥子に目を遣った。
自分が地上を離れてから3年の歳月が流れたという。
ネウロにとってはたかだか数時間ほどにしか感じない時間ではあったが、確かに変わった。町並みも、事務所の様子も、そして、弥子自身も。
それこそ、3年という期間を感じるくらいには。
青臭さが未だ抜けないところはそのままだが、態度も、醸し出す雰囲気も、外見すら。
相応の深みが出てきたと言っても過言ではないと思う。
そう。それはとても好ましい。
不意に、ネウロは懐かしい気分に陥った。
自分の感覚では別れてから大した時間も経っていないというのに、還ってきたという思いが胸を衝いた。それは不思議な感覚であったが、ネウロは口元に笑みを刷くとするりと弥子の背後に忍び寄る。
ネウロの眼下で土産物の選別をする弥子に手を伸ばした。
「いっだだだだだ!痛い痛い!何すんのよ!」
「フム。3年たったという貴様の脳はどれほど進化したのかと思ってな」
「折角進化した脳細胞が死滅するぅぅううう!!」
「フハハ。脳は使えば使うほど成長すると聞いたが間違いだったか?」
「あんたの所為で片っ端から使い物にならなくなるんですけど」
「フン」
ぱっと手を放すとネウロは指定席に座る。瞬間香るのはやはり弥子のもの。弥子の視線がネウロを追いかけるのに気が付いて、ネウロは瞳を煌かせる。
「我が輩が恋しかったのか?ヤコ」
長い脚を組み、首を傾げて問う。
「は?」
突然飛躍した問い掛けについていけない弥子は首を傾げるだけだ。
「この椅子に座って我が輩の帰りを待っていたのか、ヤコ」
組んだ脚を解き、トロイに肘を衝いて身を乗り出す。ネウロの言葉は既に質問ではなく断定だ。
「そっ、そんなこと…」
弥子は驚き、後退さった。指摘された事実に、じわじわと頬が紅潮する。既に褐色の瞳は深緑に絡め取られて逸らせなくなっていた。
「ではなぜ…」
「あの椅子から貴様の香りがするのだ?答えろ、ヤコ」
一瞬で眼前に迫ったネウロに驚いて弥子は息を詰めた。近い。3年ぶりに再会した美貌が弥子を真上から見下ろしていた。そのままジリジリと弥子を壁際に追いやり、終には両腕を壁に突いて弥子を鎖じ込める檻のように逃げ道を塞いでしまった。
「あの、ネウロ…」
「ヤコ、答えろ」
ネウロがいやに真面目な表情で弥子を見下ろして、弥子は捕らわれたことを悟った。
なんなのだ、これは。3年前はこうではなかった。
「ヤコ」
まるで、そう答えるのを求めているかのようではないか。
でも、こいつに限ってそんなこと…と弥子は思う。何と言ってもこいつは人智を外れた化け物だ。人の心なんて解りはしない。

…でも、

3年前のあの時は、言葉なんて無くても解り合えた。
それはネウロが種を蒔き成長を促した弥子の能力と、彼自身の資質と欲望が与えた結果だ。
弥子は目を閉じ、大きく息を吸って呼吸を止めた。
ネウロは何を求めている?
ゆっくりと眼を開いて、陰に在ってすら輝きを失わない魔性のものの瞳を覗き込んだ。
かつてのように、もっと深くを探るように、離れた間に自分がどれほど進化したのかを見せ付けてやるように、もっと、奥まで。
そうして、手繰り寄せて引き出した糸を離さないように抱き締めた。
「ただいま。おかえり、ネウロ」
変わらない群青の上着にしがみつく。温もりなんてまるでない。でも、慣れた感触だった。とても懐かしいと思い、弥子は音のしない胸に頬を寄せた。それと同時にネウロは弥子を包むように腕を回した。
「おかえり。…ただいま、弥子」
耳元で囁かれた優しげな響きに、弥子は正解を知った。
そしていつの間にこんなに人間臭くなったのだろうかと弥子は思う。以前はこちらの常識なんてとてもじゃないが通じない、ただの異世界の住人だった。でも今はこうして弥子の言葉を求めてくれる。『ただいま』と言えば『おかえり』と、一対の挨拶が完成する様はなんて擽ったくて温かいのだろう。
これからも幾つもの挨拶を組み立てていければいいと思う。
そんな未来の気配を感じながら、弥子はネウロの背に腕を回した。




「……って、ネウ、いたっ、苦しっ!!離してよ!」
「フハハハハ。魔界では再会のハグというのはどちらかの背骨が砕けるまで行うのだ」
「それ完全に私の骨が砕けるっ!こんな無意味な力比べ地上に持ってくんなぁあああ!」






ny04




fin.


091016








Greeting with you.




黄昏様、大変遅くなりまして申し訳ありませんでした。(陳謝
戴いたリクエストは「ドSばっかり仕掛けるくせにとにかく甘えまくりの魔人さまとその態度に呆れつつも言うことを聞いてあげている弥子ちゃん」
シチュエーションは割と早くに思いついていたのに、なかなかドSにならず…
てかこれドS?呆れつつも言うこと聞いてる?
甘えてるって言うか、あまいっぽい雰囲気ではあるような無いような…
あああ、なんて半端。
でも楽しかった!
こんなものでもよろしければどうぞお持ちください。改変承ります。
黄昏様とのご縁が続くよう祈りながら。

紫藍



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