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エイジアの手のひらに落とされた髪飾りはもう、元の色すらも判別できぬくらいに細かく砕けて、頬を撫でる春の風に散じてその質量を減少させた。
これでは、元に戻すなどとても。
エイジアが途方に暮れてヤコを見ると、ヤコもまたエイジアを見上げニコリと桜のごとく儚げに微笑った。
どうにかしてここに繋ぎ留めてやりたいと、腕を伸ばしかけてエイジアは動きを止めた。
違う、と。
この存在をこの地に存在せしめているのは自分ではないのだと、理解した。
皮肉なことに、瞬間触れただけの、髪飾りの成れの果てによって。
計り知れないほどの金属疲労によって瓦解する運命にある、護符代わりの超貴金属の天寿を全うした姿によって。
同時に感じたのは

感傷と、
僅かな怒りと、
仄かな羨望。

それまで、孤独のみを友としてきたエイジアにとって、それは己の存在意義すら揺るがす大事ではあったが、
今は何よりもこの、春の気配よりもおぼろげな少女を掬ってやりたいと、そう思った。
「壊れて、しまいましたね」
「ええ。申し訳ありません。この手に移したりしなければ、もう少しの間形を留めていたでしょうに」
「いえ、エイジア様のお心だけで十分です。ありがとうございました」
「こちらこそ、」
申し訳ありません、と頭を下げたエイジアの手を取ってヤコは笑った。
「気にしないで。いつものこと、なのですから」
「しかし、」
「エイジア様の所為では、ないのですから。どうかそんな悲しそうなお顔をしないでください。綺麗なお顔が台無しになってしまいます」
どんなにか、自分のことなどどうでもいいと言いたかったか。
しかし、何より悲しいのはこの、齢よりも幼げな少女の方だと思い知って口を噤んだ。
「私の、所為なのです」
地上の大地と同じ色をした少女の瞳が、雨に濡れたかのように深い色に染まる。
「いえ、言葉が違いますね。ネウロは、いつも私の為になることしかしてくれない」
「…それは」
自分の両の手のひらを力無げに見つめて、少女はそれを軽く握ると言葉を続けた。
「もっと、自分を大事に、自分に正直に生きてもいいと思うのです」
「…」
「私が居なければ、ネウロはもっともっと、世界の果てまでも翼を拡げて、どこまでだって往けるのに」
桜色の唇を震わせて出てきた音の葉は、少女の存在そのものを否定する言葉だった。
「いばら姫、それ以上は私が許しませんよ」
「え?」
「それ以上、ご自分を貶める言葉を言って御覧なさい。望み通り、私が、この手で貴女の息の根を止めて差し上げましょう」
エイジアは自分が思っていたよりも怒気の混じった音声を発していることを自覚して驚いた。
「エイジア様…」
少女は、エイジアがそんな反応を示すとは思わなかったのだろう。
恐怖よりも驚愕を彩った虹彩を揺らしてエイジアを見つめた。
「ネウロは、貴女の兄君は、恐らくこの魔界の誰よりも自由な鳥だ」
教え、諭すようににこりと微笑み、エイジアは口を開く。
「貴女はご自分を鎖だと仰るが、それは間違いですよ」
「ま、ちがい?」
「ええ。彼が貴女の許に戻るのは、貴女の存在こそが彼にとっての世界の全てだからです。楽園、と言ってもいいでしょう」
「らく、えん」
「その通り。鳥が遠くまで飛んでいくのは、自分にとって住みよい土地を探す為。その、何者にも縛られない自由な鳥が戻ってくると言うのであれば、」
言葉を切ってヤコの様子を伺う。
ヤコはさまざまな色に瞳を染めながらエイジアの言葉を待っている。
何故だか、胸の奥に灯が点ったような感覚を覚えて、それを不思議に思いながらもエイジアは恐らく甘言ではないであろう真実を、己の声に乗せて少女に届けた。
「貴女こそが、彼にとって何よりも心地よい止まり木だから。…違いますか?」
ヤコはヒクッと喉を引き攣らせて口元を両手で押さえた。
ちりん、と小さな鈴の音がひとつ、エイジアの耳に届いたような気がした。
「…っ、ほんとに?」
「さぁ…、本当のことは彼に訊かなければ解りませんが」
自分が何故恋敵の肩を持つようなことを口走っているのかと訝しく思いながらも、
儚げな様子がヤコの表情から消えたことに満足してエイジアは言葉を続けた。
「見ていれば判ることもありますよ」



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