「さよなら、行ってきます」
黄昏、逢魔が刻を超えて宵闇の世界へ飛び込んだ。
支える腕がありこそすれ、それはもうほとんど自由落下に近い感覚。
「ねぇ、離してもいいよ」
「なんだ、貴様頭でも沸いたか?…ああ、貴様の頭は豆腐で出来ているから年中蛆が巣食っているのだったな」
「だったら、私を捨てる?」
「そんなことをして何になると言うのだ。折角ここまで磨いてやったのだ、もっと羽ばたいてみせろ」
「そこにあんたが居てくれるなら、やってやろうじゃん!」
今ならどこへだって行ける気がするから。
闇色に彩られた鮮緑の螺旋が柔らかく弧を描いた。
私は大きく両腕を開いて、僅かに湿った夜の大気を抱きしめた。
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