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一際大きな花火が一輪、高く舞い上がった。


流るる花の息継ぎの色


「本当に有難うございました。探偵さんのおかげで犯人が捕まって、
これで漸く、殺された仲居の子も浮かばれるというものですよ…。
それにしても、まさか、こんな鄙びた田舎へ高名な探偵さんがいらっしゃるなんてねぇ…
偶然に感謝しなくてはいけませんわね」

女将の言葉に弥子は恐縮しながら、ヘヘヘと愛想笑いをした。

「いや、ちょうど夏休みだったんで…それに偶然というより化け物の本能が、」

「おや? 先生、背中に虫が!」

ドゴォッとネウロの踵が弥子の背中にクリーンヒットし、
弥子の体は旅館に常設している小さな土産物屋まで吹っ飛んだ。

「やだなぁ、先生、いくら空腹だからって…
店頭のお菓子を喰い尽くそうと頭から突っ込むなんて、浅ましいにも程がありますよ?
皆さん驚いてらっしゃるじゃないですか、ほら早く謝って」

「…どうもすみません」

ネウロに首根っこを掴まれ、兎のように持ち上げられながら弥子が謝ると、
女将が慌てて言った。

「いえ、そんな…むしろ何のお構いもしませんで…
どうでしょう、もう日も暮れますし、当館にお泊りになっていかれては。
勿論、料金は頂きませんし、報酬もきちんとお支払いさせて頂いた上で…。
私共の感謝の気持ちですから。すぐ、お夕食のご用意を致しましょう」

「…はっ、そういえば、ここの料理長は、かの有名なっ」

「恥ずかしながら、少しばかり名が知れているようで…
その料理長に腕をふるってもらって、特上級の懐石料理をお出し致しますよ。
温泉もございますし、ごゆっくりなさって下さいな」

「懐石料理…っ!」

たらりと涎を落とした弥子の頭をネウロが鷲掴んで、グイとよけた。

「温泉ですか。源泉はこの近くに?」

「ええ、ほら、此処からも見えます、あの山の…」

窓から見える山を指差す女将の言葉が終わらぬうちに、
ネウロは快く承諾の返事をした。





「わあっ、浴衣が可愛い! あれ、何着か有る…。へえ、選べるんだあ、気が利いてるね。
あ、ネウロ、男物も有るよ。着替えたら?」

「む? ユカタ? 我が輩、まだよく解らんのだが…
夏になると盛りのついた女達が祭だ何だと託けて、男を籠絡する為に着飾る、あの和服の事か?」

「今、日本中の女を敵に回したね…。あんたの知識には独断と偏見が垣間見えるよ」

「ヤコ、手伝え。いまいち着方が解らん」

「もう着替えてるし! ノリノリか!」

「貴様らの文化を見聞だけでなく肌で理解しようとしているのだ。
で、この続きはどうしたらいいのか、はやく教えろ」

「あのね、まずスーツを脱がないと。…………………ちょっと待て、
私の手をどうするつもりですか!? いや、手伝わないし!
あんた、浴衣の着方は解らなくてもスーツの脱ぎ方は解るでしょうが!」

「それも手伝いたいのかと」

「清純な女子高生に何を…っ」

「…清純? つい先日、清純ではなくなったと思っていたが…我が輩の記憶違いか?
確か貴様、我が輩とあんな事やそんな事を」

「ぎゃー! 聞こえない! 何も聞こえない!」

「そうか、思い出させて欲しいのか。ならば貴様の着替えを手伝ってやるついでに」

「手伝わなくていいし! …ちょっ、や、下着まで脱がすなあ!」

「浴衣を着る時は下着をつけないのが正しいらしいぞ」

「あんた、私より詳しいじゃん!」

キャッキャと楽しそうに弥子で遊ぶネウロの背後、その窓の向こうの空に、
パッと火の破片が弧を描いて散華した。

「…あ」

「うん?」

「…花火!」

続いてパパパパッと小さな花が幾輪も咲き綻び、
夜空に艶やかな刺繍を施したように光が雨となった。

「うわ…、こんな精巧な花火、初めて見た…。
テレビでは何回か有名な花火大会、見たけど…実際に見るのとでは全然違うんだね…!」

「ああ、そういえば。この土地は全国区でも一、二を争う花火大会の開催地らしいな。
職人の腕の良さは世界にも知れ渡っていると」

「ね、せっかくだから窓開けようよ。」

「構わんが、その格好で花火見物する気か?」

「…ぎゃあ!」

素肌に浴衣を引っ掛けただけの弥子は慌てて前をかき合わせ、帯を探した。

「あれ? 帯が無い! さっきまでは確かに、」

「これの事か?」

ネウロの手中でメラメラと燃え盛るのは、もはや帯の残骸。

「…何してくれてんのおお!!?」

「いやなに、自殺でもする為の道具かと…貴様に死なれては困るからな、処分した」

「誰が首なんかくくるか! ああ、もう、旅館の人になんて謝ったら…それに…
せっかく可愛い浴衣、着れると思ったのに…」

「何をしている」

「何って、こんな格好じゃ窓辺に立てないから制服に着替え…」

「こうすれば良いだろう」

ネウロは弥子の腕を引いて、窓辺に座ると弥子の体を自分の膝上にストンと置いた。
そうして弥子の腰を自らの腕で、かき合わせた浴衣ごと抱きしめて包んだ。

「我が輩の腕が帯の代わりになるだろう?」

「…あ、うん、でも…」

「なんだ? まだ何か文句があるのか?」

「これはこれで恥ずかしいっていうか…なんか…照れるっていうか…」

「見ないのか? 世界的に有名な花火だぞ」

一際大きな花火が一輪、高く舞い上がった。
限界まで空を駆け上がり、天上に手が届かずに火の塊は弾けた。
優雅な大輪の花のように、けれど儚さを伝えるように虚空に散り、
流れて、地に墜ちていく。
それは夏の終わりに命を振り絞って咲く花の最期の時に似ていた。
その壮絶な美しさに、呆然と夜空を見上げる弥子の体をもう一度強く抱き締めて、
ネウロは彼女の頬に口づけた。
我に返った弥子が、ふとネウロを見上げる。

「…もういいか?」

「え?」

「花火を堪能したかったのだろう? 次は我が輩が堪能する番だ」

「…ひゃっ」

ネウロは弥子を抱き上げ、畳の上に組み敷いて、浴衣の合わせを開いた。
白い布地に散らされた色とりどりの花絵の中に、弥子の華奢な体が横たわっている。
時々、空を飾る花火の陰影が、弥子の体に万華鏡の光彩のように映っては消えた。
彼女の体は呼吸のリズムを刻む為に僅かに揺れている。
その肌を、花火の残り火の色が何度も滑り落ちていく。
ネウロはそれを眺めて、移ろう四季の拍動や、その豊かな色彩の多情さ、
そして儚さと力強さは同義だという事を知って、微笑んだ。






fin.



++++++++++


(兎さんと呼ばれて少々暴走気味)

ぎゃあああああああああ!!
Ashaのミリュウ様が相互+私の誕生日プレゼントにこんな素敵SSを!!

いいの?
これホントに私、戴いていいのかしら!?
きゃっほーぅ!!

私のリクエスト『ちょっと遠くに謎解きに行った帰りに遠くに花火が見えて…』
っていうなんとも抽象的な要望がこんなSSに昇華した!!
ミリュウ様ありがとうございます!!

この前半のやりとり、ホントに松井先生の漫画を読んでいるようでもーパソコンの前でニヤニヤニヤニヤ。
自分気持ち悪いったらない。
(ミリュウ様のSSは最高です。)
一転して後半、温泉宿っぽいなんともいえないしっぽり加減。
チキンな私はこんな色っぽいシーンかけません!!(描くのも書くのも)
程よく品よくセクシー。
まるで腹チラネウロのようだ…。←意味不明

それに花火の描写がハンパない。
なにそれ!?
無声映画のワンシーンみたいで、
連続撮影の写真みたいだ。
そんな表現力ほしい。

ていうかアートな写真を見ているみたいだ。
むしろフォトグラフだphotograph。
一流のカメラマンがいらっしゃる。
一眼レフを使いこなす小説家がここに!
あああああ、羨ましい。

視えたものを観えたままに。

アナクロなようでいて、その実とても高度な技術だと思うのです。
私にはとても真似できません。
ほら、私のはどこまで行ってもCGでしかないのです。
脳内妄想ならなんだって出来るしね。

派手好きな性格をなんとかしたら近づけるのかしら?
でも、それぞれでいいのかもしれない。
ネウロと弥子みたいに。←結局それが言いたかっただけ。

お粗末さまでした。

ミリュウ様、素敵なSSありがとうございました。
こんな私ですが仲良くしてください。^^

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