滑稽なほど、愚かしい夢を見た。
▼Warning▼
死ネタ、アブノーマル在り。
アウトォ!!な人はブラウザバックで回れ右。
バッチコイな人はスクロールプリーズ。
▼Warning▼
死ネタ、アブノーマル在り。
アウトォ!!な人はブラウザバックで回れ右。
バッチコイな人はスクロールプリーズ。
滑稽なほど、愚かしい夢を見た。
たしたしと、キャラメルブラウンの長いおさげが我が腕を叩く。
「………なんだアカネ」
不機嫌を露わに低音で答えると、アカネは一瞬ヒクリと引き攣った動きを見せた。
しかしすぐに抗議の態度を表す。
《もう、止めてください。こんなことをしてもヤコちゃんは戻ってきません》
「そんなわけがあるか。現に貴様は生き返ったではないか」
《私のと彼女は違います!私は、いつからあそこにいたのか、誰がどんな状況でああしたのかも判りませんでしたけど、彼女がそうでないのはネウロさんが一番ご存知でしょう!?彼女を看取った貴方が、判らないわけがありません!》
「………しかし、生き返らないという確証もないではないか。だからこうして我が輩が抱き締め、貴様を付けて瘴気を、」
《恐らく、効果は薄いでしょう》
アカネの声無き言葉にピクリと神経が振動すると、『ヤコ』の肩を抱いた掌に力が入った。
弾力を失った細胞が潰れ、白いドレスを纏った『ヤコ』の剥き出しの蒼白い肩に紫色の花弁が散った。
「ああ、ヤコ…。済まない。痛かったか?我が輩としたことが…」
《ネウロさん…ヤコちゃんは暇さえあれば瘴気の発生源の私たちと過ごして、貴方と関係を結び、あまつさえ***くんをその身に宿したんですよ?瘴気に耐性がついても奇妙しくありません》
「***は、産まれなければ良かったと、言うのか。貴様は?」
《どうして貴方はそう極端に物事を捉えるんですか?***くんの誕生を誰より望んだのは彼女なのに!》
「ならば何だと言うのだ!我が輩が居なければ良かったとでも!?」
《…ええ!貴方さえ居なければヤコちゃんはこんなに早く死んでしまうこともなかったでしょうね!》
ヤコが、死んだ。
死因は急性機能不全。
またの名を慢性瘴気中毒。
魔界から戻った我が輩と番(つが)い、子を成したのがあれが20歳のとき。
その後15年間我が輩に付き従い人の心を偵い、時に謎を解き、子を育て、そして逝った。
我が輩は、あれを片時も離さず手元に置き、愛で(虐で)、慈しみ、そして失った。
最高の相棒を。
最上の奴隷を。
最良の妻を。
最愛の、ヤコを。
永遠に、喪ったのだ。
《…ですが、貴方が居なければヤコちゃんは二度と、笑うことも出来なかったのでしょうね》
「ヘラヘラと誰彼構わず媚びを売る、この脳タリンのピーマンがか?」
《だって、大好きだったお父さんの死の真相を知ることが出来たのは、貴方が謎を解いたからです。私がこう言うのもおかしいですけど、彼女は貴方のおかげで変わった。身も心も強くなりました》
「…」
《だからこそ彼女は貴方の帰りを待って居たんですよ。必死に、自分を磨いて》
腕の中の『ヤコ』に目を落とす。
存外長い睫毛は繊細で、白い頬に落ちる髪の毛はしなやかさを失ってはいない。
そう、まるでその持ち主そのものを顕しているようだ。
しかし、この伏せられた瞼が開いて我が輩をその瞳に映すことも、桃色だった唇を開いて我が輩を呼ぶことも、無い、ということが。
「ヤコっ…!!」
斯くも身を裂かれるより辛いなどと、誰が想像出来たと言うのか!
我が輩の体温よりも冷たくなってしまった頬に摺り寄ると、馴染んだ甘い匂いの奥に、更に甘い腐臭が混じっている。
時間が、無い。
「ネウロ」
声が聞こえて顔を上げると、ヤコが立っていた。
「ネウロ」
ヤコが我が輩に手を伸ばす。
触れる。
頬に、愛しい体温。
「ネウロ」
「ヤ、コ?」
「そうだよネウロ」
唇が触れる距離で囁くヤコの頭を空いている片手で引き寄せる。
押し付けた唇は温かく、甘く柔い。
幾度か確かめるように啄むと、おずおずとその唇が開かれた。
誘い込まれるようにその奥へ侵入し、逃げ込んだ舌を絡めとる。
ズルリと引き出し、根元を擽り、喉奥をなぞり上げる。
絡まる唾液の粘る水温も、鼻に抜ける掠れた喘ぎも全て、
我が輩のヤコのものだ。
強請る弥子の呼び声に、口付けを再開しながら我が輩はもう一方の手で弥子の頬に触れる。
サラリとした触感は心地良く、肩を抱いて引き寄せればそのまましなだれ掛かってくる。
もっと深く、より強く、ヤコをこの身の内に取り込むように、我が輩は噛み付く勢いで弥子の口内を貪る。
満たされない渇きを慰めるように、与えられる弥子の唾液のなんと甘美なことだろうか。
しかし、
この果て無き渇きを弥子で癒せる訳もなく、尚更にヤコが欲しいとこの身が哭く。
「ヤコ、弥子…いや、***」
「なんだ。もうバレちゃったのか」
「貴様如きに我が輩が騙されるとでも?」
「いいや、思わないよ。ただね、」
「アンタに引導を渡すのは、やっぱりヤコの姿を持った俺の役目かと思って」
***は腕に白い塊を抱えて立ち上がった。
あの白い塊は、『ヤコ』だ。
アカネが『ヤコ』を離れ、***に取り付く。
サラリとキャラメルブラウンを靡かせ、***が我が輩を振り返った。
「返して欲しかったらついて来いよ」
ニコリと、***はヤコの顔で笑うと部屋を出て行く。
我が輩は視線を落とし、そこに『ヤコ』が居ないことを認めると立ち上がった。
導かれるままに、『ヤコ』を追いかける。
「ああ、来たね」
返すよ、と***が『ヤコ』を差し出す。
無言で最愛を受け取った我が輩に微笑みかけ、***は天上に目を向けた。
「満月だなんて出来過ぎてると思わないか?ネウロ」
「意味が、解らんな」
「旅立ちに丁度好すぎるって話だよ」
***が笑う。
「魔物が出歩く月夜、なんて様に成り過ぎてる。オマケに駆け落ち相手は死人なんて、似合い過ぎて反吐が出そうだ」
「駆け落ち、ではない」
正式に届けを出して結婚したのだから。
「なんだっていいよ、そんなこと」
苛々と***が頭を振る。
「帰ればいい。魔界に」
「帰る?何故」
「そんなに瘴気が濃いなら、生き返るかも、知れないだろ?」
「しかしアカネは…」
「可能性を語る魔人が何を言ってるんだ?どうせ謎は逃げないんだ。可能性に賭けてみろよ、ネウロ!」
***の顔は泣きそうに歪み、『ヤコ』を抱いた我が輩の腕に取り縋る。
その瞬間に我が輩は理解した。
***は、我が息子は、母親と、ヤコと同じく、我が輩を生かそうとしているのだと。
ヤコが我が体を生かそうとしたように、***は我が心を生かそうとしている。
最愛を失って、砕けた精神を。
「…ああ、そうだな。賭けて、みようか」
「そうしろよ。しおらしいアンタなんか見たくないんだよ」
フ、と自然に顔が弛んだのは何時振りだろうか。
つられて***も笑う。
ヤコと同じ顔で。
「行ってくるぞ、***」
「ああ、行ってこいよ。ネウロ」
『ヤコ』を抱え直し、まだ我が輩の肩に届かない***の頭を撫で、高く高く跳躍する。
ごうごうと鳴く夜気の中で、***の声が小さく聴こえた。
目を開けるとそこは未だ夜の領域で、しかし地上の脆弱な闇が我が輩に及ぼす影響など知れたもので。
それにしても厭な夢を見たものだと思う。
それは却って感心する程に奇妙なものだった。
(幸…否、不幸な夢であったのだろうか)
ヤコが死ぬ。
つまりそれはこの温もりを失うということ。
好ましくない。
非常に。
しかし夢の中故のあの子どもの存在は、
(可能性、か)
らしくもなく諭される夢は、ほこりと温まるような、それでいて胸の奥に突き刺さるような。
(莫迦莫迦しい)
嘆息して、腕中のヤコを見やれば目尻に光る雫を見つけた。
好ましくない。
ヤコを泣かせていいのは我が輩だけだ。
「ヤコ、起きろ。ヤコ、ヤコ、ヤコ…」
未来がどうであれ、我が輩はまだヤコを手放すつもりは無いのだ。
ただ、その先に、変わらず存在していればいい。
「ヤコ、ヤコ」
「ぅん?」
「何を泣いているのだ、ナメクジ女」
さあ、その瞳に我が輩を映せ。
悪夢/幻想/Nightmare
100315
++++++++++
白昼夢とセットのつもりで書いたナイトメア。
あんまり悪夢っぽくないな。
しかしネウロが恐怖するところなんて想像できんし!
ポジティブなとこしか見てない魔人万歳。
最初に思ってた話とだいぶ変わってしまったけどこれはこれで気に入っている。
たしたしと、キャラメルブラウンの長いおさげが我が腕を叩く。
「………なんだアカネ」
不機嫌を露わに低音で答えると、アカネは一瞬ヒクリと引き攣った動きを見せた。
しかしすぐに抗議の態度を表す。
《もう、止めてください。こんなことをしてもヤコちゃんは戻ってきません》
「そんなわけがあるか。現に貴様は生き返ったではないか」
《私のと彼女は違います!私は、いつからあそこにいたのか、誰がどんな状況でああしたのかも判りませんでしたけど、彼女がそうでないのはネウロさんが一番ご存知でしょう!?彼女を看取った貴方が、判らないわけがありません!》
「………しかし、生き返らないという確証もないではないか。だからこうして我が輩が抱き締め、貴様を付けて瘴気を、」
《恐らく、効果は薄いでしょう》
アカネの声無き言葉にピクリと神経が振動すると、『ヤコ』の肩を抱いた掌に力が入った。
弾力を失った細胞が潰れ、白いドレスを纏った『ヤコ』の剥き出しの蒼白い肩に紫色の花弁が散った。
「ああ、ヤコ…。済まない。痛かったか?我が輩としたことが…」
《ネウロさん…ヤコちゃんは暇さえあれば瘴気の発生源の私たちと過ごして、貴方と関係を結び、あまつさえ***くんをその身に宿したんですよ?瘴気に耐性がついても奇妙しくありません》
「***は、産まれなければ良かったと、言うのか。貴様は?」
《どうして貴方はそう極端に物事を捉えるんですか?***くんの誕生を誰より望んだのは彼女なのに!》
「ならば何だと言うのだ!我が輩が居なければ良かったとでも!?」
《…ええ!貴方さえ居なければヤコちゃんはこんなに早く死んでしまうこともなかったでしょうね!》
ヤコが、死んだ。
死因は急性機能不全。
またの名を慢性瘴気中毒。
魔界から戻った我が輩と番(つが)い、子を成したのがあれが20歳のとき。
その後15年間我が輩に付き従い人の心を偵い、時に謎を解き、子を育て、そして逝った。
我が輩は、あれを片時も離さず手元に置き、愛で(虐で)、慈しみ、そして失った。
最高の相棒を。
最上の奴隷を。
最良の妻を。
最愛の、ヤコを。
永遠に、喪ったのだ。
《…ですが、貴方が居なければヤコちゃんは二度と、笑うことも出来なかったのでしょうね》
「ヘラヘラと誰彼構わず媚びを売る、この脳タリンのピーマンがか?」
《だって、大好きだったお父さんの死の真相を知ることが出来たのは、貴方が謎を解いたからです。私がこう言うのもおかしいですけど、彼女は貴方のおかげで変わった。身も心も強くなりました》
「…」
《だからこそ彼女は貴方の帰りを待って居たんですよ。必死に、自分を磨いて》
腕の中の『ヤコ』に目を落とす。
存外長い睫毛は繊細で、白い頬に落ちる髪の毛はしなやかさを失ってはいない。
そう、まるでその持ち主そのものを顕しているようだ。
しかし、この伏せられた瞼が開いて我が輩をその瞳に映すことも、桃色だった唇を開いて我が輩を呼ぶことも、無い、ということが。
「ヤコっ…!!」
斯くも身を裂かれるより辛いなどと、誰が想像出来たと言うのか!
我が輩の体温よりも冷たくなってしまった頬に摺り寄ると、馴染んだ甘い匂いの奥に、更に甘い腐臭が混じっている。
時間が、無い。
「ネウロ」
声が聞こえて顔を上げると、ヤコが立っていた。
「ネウロ」
ヤコが我が輩に手を伸ばす。
触れる。
頬に、愛しい体温。
「ネウロ」
「ヤ、コ?」
「そうだよネウロ」
唇が触れる距離で囁くヤコの頭を空いている片手で引き寄せる。
押し付けた唇は温かく、甘く柔い。
幾度か確かめるように啄むと、おずおずとその唇が開かれた。
誘い込まれるようにその奥へ侵入し、逃げ込んだ舌を絡めとる。
ズルリと引き出し、根元を擽り、喉奥をなぞり上げる。
絡まる唾液の粘る水温も、鼻に抜ける掠れた喘ぎも全て、
我が輩のヤコのものだ。
強請る弥子の呼び声に、口付けを再開しながら我が輩はもう一方の手で弥子の頬に触れる。
サラリとした触感は心地良く、肩を抱いて引き寄せればそのまましなだれ掛かってくる。
もっと深く、より強く、ヤコをこの身の内に取り込むように、我が輩は噛み付く勢いで弥子の口内を貪る。
満たされない渇きを慰めるように、与えられる弥子の唾液のなんと甘美なことだろうか。
しかし、
この果て無き渇きを弥子で癒せる訳もなく、尚更にヤコが欲しいとこの身が哭く。
「ヤコ、弥子…いや、***」
「なんだ。もうバレちゃったのか」
「貴様如きに我が輩が騙されるとでも?」
「いいや、思わないよ。ただね、」
「アンタに引導を渡すのは、やっぱりヤコの姿を持った俺の役目かと思って」
***は腕に白い塊を抱えて立ち上がった。
あの白い塊は、『ヤコ』だ。
アカネが『ヤコ』を離れ、***に取り付く。
サラリとキャラメルブラウンを靡かせ、***が我が輩を振り返った。
「返して欲しかったらついて来いよ」
ニコリと、***はヤコの顔で笑うと部屋を出て行く。
我が輩は視線を落とし、そこに『ヤコ』が居ないことを認めると立ち上がった。
導かれるままに、『ヤコ』を追いかける。
「ああ、来たね」
返すよ、と***が『ヤコ』を差し出す。
無言で最愛を受け取った我が輩に微笑みかけ、***は天上に目を向けた。
「満月だなんて出来過ぎてると思わないか?ネウロ」
「意味が、解らんな」
「旅立ちに丁度好すぎるって話だよ」
***が笑う。
「魔物が出歩く月夜、なんて様に成り過ぎてる。オマケに駆け落ち相手は死人なんて、似合い過ぎて反吐が出そうだ」
「駆け落ち、ではない」
正式に届けを出して結婚したのだから。
「なんだっていいよ、そんなこと」
苛々と***が頭を振る。
「帰ればいい。魔界に」
「帰る?何故」
「そんなに瘴気が濃いなら、生き返るかも、知れないだろ?」
「しかしアカネは…」
「可能性を語る魔人が何を言ってるんだ?どうせ謎は逃げないんだ。可能性に賭けてみろよ、ネウロ!」
***の顔は泣きそうに歪み、『ヤコ』を抱いた我が輩の腕に取り縋る。
その瞬間に我が輩は理解した。
***は、我が息子は、母親と、ヤコと同じく、我が輩を生かそうとしているのだと。
ヤコが我が体を生かそうとしたように、***は我が心を生かそうとしている。
最愛を失って、砕けた精神を。
「…ああ、そうだな。賭けて、みようか」
「そうしろよ。しおらしいアンタなんか見たくないんだよ」
フ、と自然に顔が弛んだのは何時振りだろうか。
つられて***も笑う。
ヤコと同じ顔で。
「行ってくるぞ、***」
「ああ、行ってこいよ。ネウロ」
『ヤコ』を抱え直し、まだ我が輩の肩に届かない***の頭を撫で、高く高く跳躍する。
ごうごうと鳴く夜気の中で、***の声が小さく聴こえた。
目を開けるとそこは未だ夜の領域で、しかし地上の脆弱な闇が我が輩に及ぼす影響など知れたもので。
それにしても厭な夢を見たものだと思う。
それは却って感心する程に奇妙なものだった。
(幸…否、不幸な夢であったのだろうか)
ヤコが死ぬ。
つまりそれはこの温もりを失うということ。
好ましくない。
非常に。
しかし夢の中故のあの子どもの存在は、
(可能性、か)
らしくもなく諭される夢は、ほこりと温まるような、それでいて胸の奥に突き刺さるような。
(莫迦莫迦しい)
嘆息して、腕中のヤコを見やれば目尻に光る雫を見つけた。
好ましくない。
ヤコを泣かせていいのは我が輩だけだ。
「ヤコ、起きろ。ヤコ、ヤコ、ヤコ…」
未来がどうであれ、我が輩はまだヤコを手放すつもりは無いのだ。
ただ、その先に、変わらず存在していればいい。
「ヤコ、ヤコ」
「ぅん?」
「何を泣いているのだ、ナメクジ女」
さあ、その瞳に我が輩を映せ。
悪夢/幻想/Nightmare
100315
++++++++++
白昼夢とセットのつもりで書いたナイトメア。
あんまり悪夢っぽくないな。
しかしネウロが恐怖するところなんて想像できんし!
ポジティブなとこしか見てない魔人万歳。
最初に思ってた話とだいぶ変わってしまったけどこれはこれで気に入っている。
PR
この記事にコメントする
- ABOUT
【カラ*フ*ル/アートボックス】
Anti Hero Syndromeのモバイル版ギャラリーです。