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この、どこまでも淡いばかりの空間のただ1人の主はネウロで、そのネウロが幸せに、健やかに過ごすための手助けをするのが私に与えられた唯一にして絶対の使命。
いつか、外の世界で生きるための力を蓄えるために私が溢れるほどの愛情と優しさで満たしてあげるのだ。
誰にも望まれずに生まれる子どもがいないように、たったひとかけらの優しさを糧に生きることができるように、私が、望んであげるのだ。

「どうか、ネウロが幸せでありますように」
「なんだヤコ、それでは我が輩が不幸のようではないか」
「そんなことないけど、ネウロは不幸だと思うの?」

ネウロが不服そうに頬を膨らましてそっぽを向いた。
私が膝を付いて彼の両手を取ると、彼は伺うようにこちらを向いた。

「いや、貴様がいるから我が輩は不幸ではないぞ」

小さな口から飛び出した珍しく素直な言葉に、私の方が面食らってしまった。

「…ありがとう」

少し照れくさく思いながら礼を述べると、ネウロは猫のようなワル~い笑顔で両手を伸ばした。
むにっと両頬を掴んで、グイグイと力任せに引っ張る。

「ぃイライ、イライ!ほっぺた千切れちゃう!」
「そんなわけがあるか。子どもの力だぞ」

パチンと突然解放されて涙目で睨み付けると、彼は天使の笑顔で微笑んだ。

「我が輩、とても幸せだ」



ここでは時間というものは酷く曖昧で、眠くなったら眠り、遊びたければ遊ぶだけ。
一体どれほどの時間が経ったのか、あとどれほどの時間が残っているのかも分からない。
ただ、時が満ちるのを待つばかり。

「ヤコ、一体いつになったら我が輩は外に出られるのだ?」
「もう少しだよ」
「貴様はいつもそればかりだ。我が輩待ちくたびれたぞ」
「ごめんね。こればっかりは私にもどうにもできないや」
「フン、役立たず」

役立たず、そう言ったネウロが少し寂しげに見えて胸が痛んだ。
そんな顔をさせたいわけじゃないのに、どうすることも出来なくて、ただ、彼を抱き寄せた。

「ねぇ、ネウロはどうしてそんなに外に出たいの?」
「…ここは、窮屈だ。息が詰まりそうになる」
「……そうだね」

ネウロがどんな人の下に生まれ落ちて、どんな扱いを受けるのかは私の知るところではない。
私に許されているのは『届ける』ことではなく、『送り出す』ところまで。
どんな力を使っても、ネウロを守ることだけが私に許された唯一の自由。

「外は、どんなところなんだろうね?」
「ここよりも狭くなければどんなでも構わん」
「ふふ。そうだね」

ネウロは寝そべりながら私の腰に腕を廻して離れようとしない。
あふ、と大きな欠伸をしてはむずがり、中々眠らず我慢している。
ポンポンと背中を叩いてやると、幼子は存外簡単に睡魔の腕(かいな)に堕ちていった。
ヤコはクスリと微笑むと羽根を毟ってネウロの頭上に振り撒いた。
するとふかふかな羽根布団が小さな体を覆い尽くし、安寧たる眠りへと導く。


いっそここで共に果ててしまえたら、どれほど幸福(しあわせ)なことだろうと思う。
永遠に、誰にも邪魔されず、ただ2人手を取り合っていられたら。


近付く別れの足音に身を震わせながら、私は背中の羽根を毟る。
安らかな寝息の主を起こして仕舞わぬよう、一片ひとひら祈りを込めて乳白色の欠片を降らせて。
キラキラと七色の光子に変貌した羽根はネウロの体に染み込んでいく。
還って行く、主の元へ。
どんな祝福よりも甘く、どんな慶賀よりも温かい祈りをその身に纏って旅立つネウロを、私はありったけの愛情を込めた笑顔で送り出してあげるのだ。
ああ、それはなんて温かい色をした未来。
だから神さま、どうかもう少しだけ、この時間を止めないで。


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