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 冷たく凍った星空に、澄んだ高音が吸い込まれていく。開け放った窓から冬の夜風が入り込んで、少女の奏でるフルートの音色と溶け合い渦巻き丘を降りる。眼下の家々には暖かな灯りが点って、ハラルドは星屑の海に揺蕩っているような、酷く心地よい錯覚に陥った。


 少女がこの町外れの工房(アトリエ)を訪れたのは大体10分前のことだ。今日の製作を終えて帰ろうとした矢先のことだった。

「ハリー!よかった、まだ居た」
「何だいメリー。これから閉めるとこだけど」
「ちょっと聴いてて!」


 そうして暖炉もとい竈は愚か、蝋燭も消してしまった小屋に拘束されてしまい、今に至る。笛の音は高らかに、荘厳に、軽快に、静穏に。そして時に穏やかに、時に優しく、時に勇ましく、時に激しく。混ざり分かれ溶け合って、宵闇に覆われようとしている世界に流れ出してゆく。終章(フィナーレ)を向かえ、最後の音が長く尾を引き闇に消え、穏やかな静寂が2人の周囲を満たした。

「ブラヴォ!新曲だね」

パンパンパンと大きな掌から数回破裂音を響かせ、ハラルドは正面に立ってフルートを抱き締めながら頬を染める若い奏者に賛辞を送った。

「うん。ハリーに一番に聴いて欲しくて、」
「さっき書き終わったばかりだったんだけど、ここまで来ちゃった!」

 ニコリと微笑む少女の淡翠に冬空が反射した。少女は素早く足元のケースにフルートを仕舞うとぽふんとソファに腰掛け、そっと隣のハラルドに凭れ掛かった。くすくすと肩を震わせて徐々に体重を掛けられる。心地好い圧力。右腕を彼女の肩に回す。特に抱き寄せようと思っていたわけではなく、単にそのままでは数分のうちに痺れてしまうであろうからだ。今更そんな事に動じるような仲ではないし、少女がそれを求めてこうしているのだからむしろ腕を回さないほうが不自然だろう。何より、愛しいものが傍に在るのだから腕に収めないなどという手はない。

「…あの曲、最後の曲ね」

ぽつり、忍び笑いを止めて少女が口を開いた。

「うん?」
「『クリスタルセレナード』っていうの、あの曲」
「『雪の小夜曲』か。うん、あの曲のタイトルに相応しいね」

ハラルドは素直に感想を述べた。すると少女は上目に彼を見詰めて問いかけた。

「気に入った?」
「もちろん!」
「じゃあ、ハリーにプレゼントしちゃいます」
「え?」
「だって今日誕生日でしょう?」
「あ…!」

そうなのだ。自分も忘れていたが、今日はハラルドの18回目の誕生日である。

「だから、これ!」

少女はリボンで留めてある楽譜を差し出してきた。受け取って譜面を見れば、それは明らかに先程とは異なる音符の羅列。

「これ…違くない?」
「違わないわよ。それしか持ってきてないもの」
「だってこれマーチ…」
「合ってるったら。ちゃんとラッピングしてあったでしょ?疑うんならちゃんと見てからにしてよ」

言われてハラルドは足元に置いた既にオイルが切れて消えかけているランプを翳して楽譜を見た。そこには「旗揚げ行進曲(マーチ)」と記されている。

「マーチじゃん」
「だから、もっとよく見なさいよ!!」
「どこをさ?」
「もうっ!」

少女は立ち上がりハラルドの手から楽譜をひったくると、くるりと振り向いて1枚目の左上を勢いよく指し示した。

「こ・こ・よっ!」
「暗くて見えないよ?」
「灯りがあるじゃない!」

ハラルドが手にしたランプに少女が目を遣ると、刹那に燃え上がり揺らめいてその火が消えた。少女は驚愕に目を見開いた。それを見てハラルドは笑う。

「残念だったね」
「ホント、信じらんない」

見逃したハラルドに怒っているのか、消えたランプに憤っているのか、呆れたような刺々しい口調で少女は言い捨てる。

「ところでメリー、あれになんて書いたの?聞かせて欲しいんだけど」
「家で見ればいいじゃない」

 気分を害してしまった少女は冷たく切り返す。ぷいと横を向いてしまってそれ以上口を開こうとはしない。困ったように微笑んだハラルドはそんな少女の気を引こうとくるまっている毛布を寛げ、彼女の手を引いた。少女は抵抗することなくぽすんとハラルドの胸に凭れた。愛しい少女を両腕で囲って先程よりもずっと収まりがいい、と思う。

「…なによ?」
「教えて」
「嫌よ」
「メリー」

 意地になる少女をキュッと少しきつめに拘束して、肩口に額を押し当てるとその身体が硬直した。あわあわと藻掻きながらゆっくりと体温を上昇させる少女は、真っ赤な顔をしているに違いない。そう考えると自然と笑みが零れた。

「~~~~~~~っわかったわよ!」

少女は困ったように笑った。





(だって『高潔なる海賊(ヴァイキング)の末裔、愛すべきハラルド=リーベルに捧ぐ』だなんて本人(メリー)の口から聞かなきゃ意味がないじゃないか)



























ホシカゲロマンティカ










+++++++++

クリスマスにめい様に贈ったプレゼントSS。の修正版。
キャラクター:ハラルド=リーベルとメリー=オルセンはめい様のオリキャラ。
ちなみにメリーがプレゼントをマーチに編曲した理由は、ハラルドがトランペッターでありケルト地方に滞在していたアングロサクソン系ヴァイキングの末裔なのでセレナーデは似合わないと思ってたからだったりします。
(すごい偏見な上に、最初から書いておけばいい)
でも、あれ?アングロサクソンだったらセレナーデでもよくない?俺らは陽気な海賊~ヨーホー♪じゃなくても…

080214

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